海外企業調査

企業調査のプロセスと情報収集

ではi2Bでは実際にどうやって調査を行われるのでしょうか。ここでもビジネスインテリジェンスのところでお話した「目的の情報がどこにあるか、どうやって情報を入手するか」の原則に変わりはありません。

調査対象企業が提携先候補であってもライバル企業であっても、基本的な調査方法は変わりません。海外企業の調査を行なうには4つのプロセスが必要となります。

基本情報の収集

まずは対象企業の基本情報を知ることです。正式名称は?代表者は?送達代理人は?役員は?業務内容は?登記場所は?住所、電話番号は?こういった情報を集めます。

企業の基本情報は簡単に入手することが出来ます。一般に出回っている企業信用レポートからも企業の基本情報は入手出来ますが、こういった企業信用レポートを重要な取引の際の判断基準とすべきではありません。容易く(手頃な値段で)入手出来るということは企業が自発的に公開している情報ということであり、企業にとって都合の悪い情報が伏せられている可能性が高いからです。このトリックに気付かずに海外企業と取引を行い、日系企業が多大の損害を負ってしまった例はたくさんあります。我々にとって、この種の「お手軽、格安」情報は調査の糸口でしかありません。もちろん、リスクと調査にかける手間や費用との兼ね合いで、「お手軽情報」で十分目的を達成することが出来ることもあるでしょう。ただ、そのリスクが企業にとって致命的になり得る場合、この種のレポートの情報だけで判断を下すことは大変危険です。

業界の把握と情報収集

対象企業の業界を理解することは非常に重要です。ただ、ビジネスインテリジェンスという目的で業界を理解することと、その業界で売り上げを伸ばすことを目的として業界を理解することは別物です。我々の目的は対象企業の情報を入手することです。ですから、その業界に関わっている企業の情報がどこにあるかということを把握するための業界理解ということを意識して作業を進めます。最も有益な情報が保管されているのは官公庁です。企業が自身の情報を開示するのは二つの場合だけです。開示する情報が企業にとってプラスになる場合と官公庁によって強制された場合です。後者の場合は虚偽の報告が出来ませんから(正確には罰則を覚悟であれば可能ですが)、官公庁における企業情報は最も信頼性が高いと言えます。特にアメリカでは、あれこれと理由を付けてビジネスを許可制にし、許可料を徴収しようとする傾向がありますので、この種の情報は非常に有益です。

官公庁からの情報収集に関しては、全ての法人に適用されるものから業界特有のものへと調査していきます。まずは Secretary of State です。どんな法人も組織を許可されなければ営業できません。次に業界特有のシステムを把握します。そして様々な公開記録から経営陣、経営陣の略歴、財務情報、展望、取引先、出資者、資産、負債、ビジネスプラン等々、有益情報を入手します。ここで重要なことは、一般の企業信用レポートに記載された情報と官公庁から入手した情報では、その性質が大きく異なるということです。前者は民間調査会社からの問い合わせに対して対象企業が任意で回答することによって得られる情報です(全てではありません。例外もあります)。内容を偽っても法的責任は問われません。一方、後者は虚偽の報告をした場合の罰則を理解した上で、企業が資料と併せて官公庁に開示した情報です。重要なビジネスに関して決定を下す際、求められるのはどちらの情報でしょうか?答えは明らかです。これが一般の海外調査と我々のビジネスインテリジェンスとの違いです。

さらなる情報収集と分析

さて、対象企業の基本情報は集まりました。対象企業の実体を示唆する情報はこれだけでしょうか?他にもあります。例えば求人広告。対象企業が以下の広告を出していた場合、どういったことが推測出来ますか?

会社名 ABCエンジニアリング
求人職種 鉄道技術者 急募!
募集人数 10名
給与 35,000ドルから50,000ドル(年収)
勤務地 オークランド
種類 フルタイム

今までこの会社が鉄道ビジネスと全く関係ない分野で仕事をしていたとすると、この分野へ新規参入しようとしていることが伺えます。オークランドでプロジェクトがあるのだろか?工場でも建設するのだろうか?急募!ということは工期が迫っているのだろうか?10名ということからその規模が推測出来ます。また、10人に35,000ドルから50,000ドルの年収を支払ってさらに利益が出るということですから、おおよその予算も推測出来ます。ここから、オークランドにおける建設ビジネスに関する記録調査、鉄道関係機械の販売業者への聞き込みと進んでいきます。特に工場の場合は環境への配慮から関連省庁へ詳細なビジネスプランを提出する必要があります。また、防災面から消防庁に建物の見取り図を通知しなければなりません。見取り図から使用される機械の予測が出来ます。機械の種類から製造される製品が推測出来ます。駐車場の敷地面積から従業員数を推測出来ます。このようにして幅を広げていくのです。

非公開企業における特定の製品の販売状況を把握するのであれば、その製品に使用されているダンボール箱の製造会社を突き止めて、その出荷数から販売数を推測することもできるでしょう。対象企業まで足を運んでみれば出入りする業者のタイプや頻度から内部で行われている業務内容が推測出来ます。また、新製品が発表される展示会も情報源としては有益です。但し、少なくとも業界について学び、調査の心得を持った者が会場に出向くべきでしょう。こういった展示会における情報収集でありがちな、現地の登録アルバイトを派遣するというのは考えものです。情報が取れなかっただけならまだ良いのですが、間違った情報を報告することによって、調査を行った企業を間違った方向へ導く恐れがあるからです。ちなみに我々はライセンスを持った調査員以外使いません。

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